06.鐘がゴーンと鳴りゃ
「一休さん」挿入歌
放送年 – 1975年
作詞 – 辻真先 / 作曲・編曲 – 宇野誠一郎
歌 – 藤田淑子
はつらつとした歌声に感じる一休というキャラクター
アニメ『一休さん』を見ていた方は、この曲のメロディに覚えがあるのではないだろうか。「鐘がゴーンと鳴りゃ」は一休をはじめとする作中のキャラクターが掃除などをしながらよく口ずさんでいた曲だ。作中でこの曲が挿入されるときはほぼほぼ鼻歌歌唱であったから、オケつきでフルバージョンが制作されていた事実を知る方は少ないだろう。むしろオケ付きで挿入された場面はあったのだろうか。『一休さん』オタクの方でご存知の方はぜひご一報いただきたい。
宇野誠一郎の作によるこの曲は、とんちタイムを思わせる静かなイントロからはじまったかと思えば、ストリングスを用いた変拍子にも聴こえるスリリングなフレーズが畳みかけてくるのが印象的だ。
歌うは主人公・一休を演じた藤田淑子なわけだが、はつらつとしたその歌声はまさに一休が歌っているという歌声で、歌手名を見ずとも歌い出し一発目から「ああ、一休さんが歌ってる曲なのだ」と誰もが自然と思うだろう。
それは藤田の声が特徴的であることはもちろんだが、やはり歌い回しがとてもそのキャラクターらしいのだ。そう感じる要因は、やはり藤田淑子はセリフ調で歌いあげるところにあるだろう。むしろ藤田淑子の歌はセリフに音程がついていると言ってもいいくらいかもしれない。そして、キャラクターの歌とはそうあるべきではないだろうか。
それからこの曲、歌詞もとてもおもしろい。お寺が焼かれたこととお坊さんの頭に毛がないことが掛けられていたり(ちなみに一休が修行する安国寺は実際戦で焼かれている)、経と今日を掛けられていたりとまさに一休のとんちを思わせる言葉遊びが多いので、ぜひ歌詞にも注目して聴いていただきたい。
07.なんじゃらもんじゃら
「まんが日本絵巻」OP
放送年 – 1977年
作詞 – たかたかし / 作曲 – 田山雅充 / 編曲 – クニ河内
歌 – 藤田淑子
これが和ロックの原点だ!?
藤田淑子が歌ったアニメの主題歌で一番知名度が低い曲は恐らくこれではないだろうか。アニメ『まんが日本絵巻』のOP「なんじゃらもんじゃら」は不思議な曲だ。日本の歴史に登場する偉人を描いた作品であるから、笛や三味線など和楽器が盛り込まれている曲なのだが、どうもいまいち和を感じられない1曲になっているのだ。どちらかというとファンクかロックだ。
そう感じさせる主な原因としては、まず、アンプにより歪ませた派手なエレキギターが入ってくるところだろう。日本の心と言われる演歌にも一見アンバランスのように思われるエレキがよく使われるので和風な曲とエレキの相性は悪いわけではないのだが、この曲のエレキはどうもあまりにもワイルドでロックテイストなため、和を覆い隠している。むしろギターが主役で、ロックに申し訳程度に和楽器を入れたような印象すら受ける。昨今の和ロックというジャンルもそんな感じなので、この曲は和ロックの走りなのかもしれない。
それからもうひとつ、この曲を和風に聴かせない原因は藤田淑子の歌声だ。和風とはほど遠い、あまりにもファンキーな歌声だ。声を濁らせ“なんじゃらもんじゃら”と入ってくるのだから、はじめて聴く人はその圧倒的なパワーに驚かされるだろう。しかも“なんじゃらもんじゃら”というワードが意味不明なため、さらにインパクトがすごい。しかし、この“なんじゃらもんじゃら”というワード、なんとも収まりのいいキャッチー言葉なため思わず覚えてしまうのが悔しい。
この謎のパワーに満ち満ちた曲を『まんが日本絵巻』という作品の主題歌に採用したスタッフの感覚はすごいと思う。
08.Smoky Violet~マライヒの愛~
「パタリロ!」挿入歌
放送年 – 1982年
作詞 – 冬杜花代子 / 作曲・編曲 – 青木望
歌 – 藤田淑子
アニソンの名を語った本格ジャズ
アニメ『パタリロ!』で藤田淑子が演じたマライヒのテーマソング、今で言うキャラソンは、藤田淑子が歌った曲の中でも、ジャズのテイストが強い、際立って大人っぽい1曲だ。
「Smoky Violet~マライヒの愛~」の作編曲を担当したのは、『パタリロ!』の劇伴を担当した青木望。青木望は他に「銀河鉄道999」や「とんがり帽子のメモル」など、数々の名曲アニソンの編曲を担当しており、そのアレンジ能力は非常に高いが、作曲を担当することは珍しい。
何故青木望は作曲をあまり担当しないのだろうか。きっと本人は作曲よりも編曲が好きなのだろうと私は解釈していたのだが、この曲を聴いているとひとつの仮説が頭を過った。青木望が作曲を滅多に担当しないのは、もしかすると青木望の組むメロディやコードは難解になりすぎて、アニソンに向かないからではないだろうか。確かに、他に青木望が作曲も担当をした『北斗の拳』の挿入歌「枯れた大地」などを聴いてもメロディが複雑だ。
しかし、青木望の曲はメロディとコードはキャッチーさが重要とされるアニソンにさ向かないかもしれないが、音楽としてはその複雑さが非常におもしろい。この曲も本格的なジャズらしいメロディとアレンジになっており、歌詞を変更すれば普通にジャズとして売り出しても誰もアニソンであることに気付かないのではないだろうか。
そんな複雑な曲となると、もちろん歌いこなすのが難しい。だが、藤田淑子は聴く人にこの曲を難しいと感じさせないほど、それは流暢にこの曲を歌い上げている。しかも、コミカルな歌唱を得意とする藤田淑子が大人っぽい声を出し、ジャズをジャズらしく歌っているのだ。恐らく藤田淑子はこのようなジャズテイストの曲を歌う機会など少なかったのではないかと思うのだが、それにも関わらずこの曲をここまで歌いこなせている姿には、藤田淑子のシンガーとしての底知れぬ才能を感じざるおえない。
藤田淑子の声が好きな人には必ず聴いておいてもらいたい1曲だ。
09.おいらテン丸
「ベムベムハンターこてんぐテン丸」OP
放送年 – 1983年
作詞 – 冬杜花代子 / 作曲 – 小林亜星 / 編曲 -高田弘
歌 – 藤田淑子
勢いがすごい、打ちきりアニメのOP
不人気のためほんの19話で打ち切られてしまった『ベムベムハンターこてんぐテン丸』のOP「おいらテン丸」は、打ち切りアニメの主題歌にしておくにはもったいないガッツのある曲だ。イントロからアウトロまでひたすら駆け抜けていくような疾走感が爽快な1曲で、この曲を聴けば自然と気持ちが高揚する人も多いのではないだろうか。
ギターも熱けりゃ、ベースも熱い、この曲の演奏は全体的にパワーに溢れているのだが、その中でも特にブラスがやたらと勢いに満ち溢れている。この曲のブラスの何ヵ所かはDo itと呼ばれるブラスを上に向かってグリッサンドさせる奏法が使われているのだが、その奏法がさらにこの曲の勢いを増しているように思う。
そして最もこの曲に勢いを与えているのは、やはり藤田淑子の歌声だ。グロウルという出だしの音を濁らせ勢いをつけるロック的な発声で終始歌い続けるのだからすごい。女性でこういう歌い方ができる人はそう多くない(そもそもそういう歌い方をしたがる人が少ない)。
その上、ところどころで声色を使い分け、コミカルさもしっかり出しているのだから、その表現力の振り幅に驚かされる。藤田は声帯を操る能力に人一倍長けていたのだろう。
10.ドリモグだァ!!
「ドリモグだァ!!」ED
放送年 – 1986年
作詞・作曲 – 川内康範 / 編曲 – 桜庭伸幸
歌 – 藤田淑子
コミカルで勢いのある歌声がインパクト大
『まんが日本絵巻』で一番マイナーだと言ったが、こちらも大概影の薄い番組だろう。藤田淑子は本作では、主人公・ドリモグ役を務めると同時に、ED「ドリモグだァ!!」の歌唱も担当した。
この番組の監修、脚本を担当、そして『月光仮面』や『レインボーマン』の原作者や作詞家としてお馴染みの川内康範が作詞だけでなく作曲も担当しているところがレアな1曲だ。
なんというか、この『ドリモグだァ!!』が放送された80年代後期頃から、どうも音楽が全体的に音が安っぽくなり、そして簡略化されていくのだが、「ドリモグだァ!!」も例に漏れずそんな印象が拭えない曲になっている。おまけ程度にデキシーランドジャズの要素が入ってはいるが、正直あまり曲にインパクトがなく印象に残りづらい1曲だ。
しかしその中で、藤田淑子の歌の完成度だけがやたらと目立つ。むしろ藤田淑子の歌声だけがこの曲を引っ張っていると言っても過言ではないと思う。それほど藤田淑子の歌声は力があり、耳に残る。
少年らしさとかわいらしさを併せ持ちつつ、ちゃんと大人らしい声も出せる天性の声質と、ずば抜けた演技力と歌唱力。この人以上にアニメのキャラクターを感じさせ、尚且つ歌としても上手く歌える人は今後現れないのではないだろうか。
藤田淑子がいなくなってしまったことが本当に心の底から残念だ。