声優 藤田淑子が歌う昭和アニソン10選

 2018年も残すところあと3日となった12月28日、突然の訃報が飛び込んできました。それはアニメ『一休さん』の一休役等でお馴染みの声優・藤田淑子さんの不幸を告げるものでした。11月も、歌手・成田賢の訃報を聞いたばかりだったので、それは大いに驚き、そして悲しみました。しかも68歳という若さ……。
藤田さんは声優としての実力は言わずもがな超一級でしたが、シンガーとしてもそれに劣らないほどの実力者でした。私は藤田淑子の歌声が大好きでした。まるで本当にキャラクターが歌っているような生き生きとした歌声は唯一無二で、その歌声にたくさんの元気をもらいました。
今回、そんな歌手・藤田淑子へ追悼の意を込め、藤田さんが歌ったアニソンを10曲に絞り、その魅力を文章にしました。
記事は年代順に沿って並べています。ぜひ、原曲を流しながら読んでください。

01.キングコング
「キングコング」OP

放送年 – 1967年
作詞・作曲・編曲 – 小林亜星
歌 – 藤田淑子、東京混声合唱団

藤田淑子初歌唱のアニソン

アメリカで制作された特撮映画『キングコング』のヒットを受け、日米合同で制作されたアニメ版『キングコング』は、藤田淑子がはじめて主題歌を歌ったアニメだ。藤田淑子はこの作品で主題歌を歌うと同時に主人公の声も担当している(『遊星仮面』の主題歌にも藤田淑子の名前がクレジットされているが、参加がセリフのみなのでノーカウントとする)。
「キングコング」を歌った当時、藤田淑子は17歳だったというのだから驚きだ。その後の藤田淑子の歌声を考えればまだまだ歌声はかたく、こなれていない感じは否めないし、本人もこの曲を聴き返すのを恥ずかしがったそうだが、それでも上手いピッチは正確だし、声も伸びやかだ。『キングコング』というタイトルに似合う力強さも感じさせる。
この「キングコング」を歌うまで、65年表立った歌の活動はなかったわけだが、これほど歌いこなせるということはそれまでボイストレーニングも積んできていたのだろう。もしかすると子役時代にも歌の仕事をしていたのかもしれない。藤田淑子の子役時代の情報をほとんど掴めていないので、知っている方はぜひ教えていただきたい。
ところでこの「キングコング」という曲は、土着感を感じさせるアレンジが作品にとてもマッチしていると思うのだが、“ウッホホウホウホウッホッホ”というコーラスがどうにも笑いを誘う。イントロはまだいいのだ。途中からこのコーラスがハモりで入ってくるのだから卑怯だ。シュールすぎる。17歳の藤田淑子はこの曲を歌うのだと言われてなにを思ったのだろう。

[2019.1.12追記]
藤田淑子は「キングコング」以前に『ひょっこりひょうたん島』の劇中で歌っているという情報をいただいた。『ひょっこりひょうたん島』の音楽を担当したのは宇野誠一郎なので、その縁でその後『ムーミン』や『一休さん』の歌唱を任されたことが予想できる。

02.どろろの歌
「どろろ」OP

放送年 – 1969年
作詞 – 鈴木良武 / 作曲・編曲 – 冨田勲
歌 – 藤田淑子

意味のない歌詞だからこそ光る表現力

藤田淑子が歌ったアニソンと言えば「どろろの歌」を最初に思い浮かべる方も多いだろう。60年代という音楽がまだ未成熟な時代の中で一際完成度の高い楽曲を産み出していた冨田勲の作である「どろろの歌」は難曲だ。“ほげほげたらたら”と意味を持たない言葉の羅列が曲の大半を占める曲なわけだが、意味のない歌詞を歌うのは難しい。言葉の力を借りることができないため、歌の表現力がすべてになるからだ。
しかし、藤田淑子の飄々とした歌声からは、殺伐とした乱世の時代に生きるどろろの姿がまざまざと見えてくる。藤田淑子は『どろろ』には声優としての出演はないものの、この歌を歌っているのはまさしく主人公・どろろだと、誰もがそう感じるのではないだろうか。

この曲を歌った当時の藤田淑子は19歳。「キングコング」を歌った頃から2年の月日が経ってるわけだが、2曲を聴き比べてみればその成長っぷりが感じられる。「キングコング」の頃は正直歌うのがいっぱいいっぱいといった一本調子の歌声であったが、「どろろの歌」では余裕のみえる歌声に変化している。
“ほげほげたらたら”のパートだけ聴いても声色の使い分けが巧みだが、曲中盤のリバーブをたっぷり効かせた語るようなパートで、藤田淑子には珍しく少年ではなく女性を感じさせる歌声に変化するのも見事だ。この女性性を出した声を使ったのは、どろろが本当は女であるという設定を考慮した演出であったのかもしれない。そして、語りを遮るように“とぼけちゃいけねえ知ってるぜ”と切りこんでくる力強い歌声は、思わずなにかを見透かされたような気がしてはっとさせられる。
ちなみに同年、藤田は歌謡曲歌手としてもデビューを果たし、何曲かレコードを出しているが、残念ながらそちらの方面ではあまりブレイクはしなかったようだ。だが、そちらで売れず、アニメ業界に居続けてくれたのは、アニメ、アニソンファンとしては正直うれしい。

03.ねえ!ムーミン
「ムーミン」OP

放送年 – 1969年、1972年
作詞 – 井上ひさし / 作曲・編曲 – 宇野誠一郎
歌 – 藤田淑子

2度のレコーディングで変化した歌声

藤田淑子が歌ったアニソンと言えばやはりこの曲を思い出す人が最も多いのではないだろうか。
アニメ『ムーミン』は昭和の時代に69年、72年と2度アニメ化されているが、そのどちらもが同じ主題歌「ねえ!ムーミン」(タイトルが「ムーミンのうた」や「ムーミンのテーマ」と表記されることもあるが、近年はこのタイトルで統一されているので本ブログではこちらのタイトルで呼称する)が採用されている。
しかし、72年版では演奏、歌共に録り直しがされているので、この2バージョンは若干細部が異なっている。この2バージョン、聴き比べてみるとアレンジはほぼほぼ同じなのだが、ひとつ分かりやすく変わっているところがある。それは藤田淑子のボーカルだ
69年版の藤田淑子の歌声は少し大人びた印象を受ける。一方、72年版は69年版と比べて歌声がより軽やかになっている。それこそタイトルの通り、ムーミンへ「ねえ」とやさしく語りかけているような歌声だ。
また、72年版の方が歌声の表情も豊かで、その歌声は「ねえ!ムーミン」という曲が持つあたたかみをより引き出したように思う。恐らく多くの人は72年版の方がよりいい曲だと感じるのではないだろうか。実際、後年よくCD収録されているのも72年版だ。この藤田淑子の歌声の変化は、シンガーとしてというよりも、役者としての経験がこの歌声を引き出したのではないかと思う。
この曲には途中、セリフが入る。これは藤田淑子の本業が歌手ではなく役者であることを考慮し入れたパートなのではないだろうかと予想をしていたのだが、最近、実際、作曲家の宇野誠一郎はこの曲を藤田淑子に歌わせるために作ったと知った。
この曲はセリフ以外のパートも語りかけるような歌い回しで、まるで絵本の朗読でも聴いているような気分になる曲になっている。宇野誠一郎はきっと、藤田淑子はそんな雰囲気で歌ってくれるだろうと見込んで、この曲を書いたのだろう。

04.ウルトラの母のバラード
「ウルトラマンタロウ」挿入歌

放送年 – 1973年
作詞 – 田口成光 / 作曲・編曲 – 冬木透
歌 – 藤田淑子

2人の“ウルトラの母”

藤田淑子は声優なのでどうしてもアニメのイメージが強いが、特撮の挿入歌も何曲か歌っている。今回唯一の特撮ソングとなるのは、ウルトラマンシリーズ第5作目にあたる『ウルトラマンタロウ』の挿入歌だ。作中でウルトラの母の声を担当したのはペギー葉山であったが、何故かこの曲の歌唱は藤田淑子が担当している。キングレコード版としてペギー葉山版の「ウルトラの母のバラード」も存在するので、恐らくレコード会社の問題だったのだろう。
この曲には藤田淑子版とペギー葉山版があるということで、今回、その両バージョンを聴き比べてみた。その際、ペギー葉山版を支持する意見を多く目にした。確かに、番組を見ていた者からするとウルトラの母の声を担当したペギー葉山の歌の方がしっくりくるのではないかと思う。
しかし、番組を見ていない私からすると、得意のコミカルな歌唱を抑え、しっとりと歌いあげる藤田淑子版もペギー葉山版と甲乙つけ難いほどいい。どちらも母性や包容力を感じるあたたかい歌声で、ウルトラの母のテーマソングとしてぴったりの歌声のように思えた。藤田淑子版は曲中盤の盛り上がる箇所での歌い上げ方に迫力があり、ああ、上手いなと感じさせてくれる。一方のペギー葉山は声楽のようなきれいな歌い方をしており、こちらはこちらで泣かせる歌だ。
この素晴らしい歌声を前に、どちらが上だなどと評価するのは野暮ではないだろうか。

05.ははうえさま
「一休さん」ED

放送年 – 1975年
作詞 – 山元護久 / 作曲・編曲 – 宇野誠一郎
歌 – 藤田淑子

さみしさとあたたかさが共存するED

“ははうえさま おげんきですか”と、一休から母親・伊予の局へ宛てた手紙の体をとった歌詞は物寂しい。
テレビ版はピアノの音が2つ鳴り響くだけのイントロからはじまる。この静かなイントロから私が連想するのは夜だ。皆が寝静まった中、ひとり月の明かりと蝋燭の火の元で手紙を書く一休の姿が脳裏に浮かぶ。
伊予の局は、後小松天皇とのあいだに一休を授かるものの、将軍と敵対関係にあった家の出身であった。そのため、将軍により一休と伊予の局は離れ離れにされ、一休は僧となった。「ははうえさま」はそんな悲しい背景を背負う曲な訳だが、この曲は悲壮感を湧き立たせるだけの曲ではない。一休は出家の際、伊予の局から男の子は泣いてはいけないと言われ旅立っている。「ははうえさま」からは、その約束を守り、強くあろうとする一休の姿や、いつかは母親に会えるだろうという希望も伺える。
そんな複雑な感情を乗せた歌詞を藤田淑子の歌声は隙なく歌いあげているのだから素晴らしい。その表現力の豊かさには、思わず母親を恋しく思い手紙をしたためる一休の表情までもが頭に浮かんでくる。
「ははうえさま」は「ねえ!ムーミン」と同じく宇野誠一郎の作なわけだが、この曲も「ねえ!ムーミン」と同じく藤田淑子が物語を語るような歌い口が得意であることを想定して作られたのだろう。

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